行政監視研究会

主宰者から

「行政監視」とは、国会がつくった法律を内閣が主権者国民に対して誠実に執行しているか見張る国会の活動のことですが、実務経験のない机上の議論だけでは問題の本質は見えてきません。そのため、公文書の改ざん事件等で「行政監視」の重要性が叫ばれる今日でも、学説(政治学、行政学、憲法学)は著しく低調であり、学問的には未開拓に近い状況にあると言えます。そもそも行政監視とは何かという基本の議論を欠いたまま、国政調査権や少数者調査権のような単なる手段の議論が展開されています。学者は、この議論の仕方のおかしさに気がついていません。「行政監視」を理解していない学者の議論には、根本的な欠陥があるのです。

この議論の欠陥は、参議院の役割とは何かという超重要問題に直結しています。特に、参議院の「独自性」に関する学者の議論は異常であり、その害悪は無視できません。行政監視と二院制に関する学者の議論は、著しく非論理的で、学問の体を成しておらず、思想的土台である民主主義の原理から体系的に作り直す必要がある、と荒井達夫は考えます。民主主義の原理に基づいて、「行政監視」の意味を考え、参議院の役割として捉え、選挙制度の議論につなげる体系的な説明が必要です。この問題は、今後の国会改革、特に参議院改革の最大のテーマとなるべき重大問題と言えるでしょう。学者による議論の混乱を収束させ、参議院改革についての議論の混迷を解消する必要があります。

「行政監視」は本質的に学者に頼ることができない専門分野(国会の実務)であり、「行政監視」の理論と制度を構築するためには、国会の議員と職員が協力して継続的に活動することが不可欠であると考えます(※)。元国会職員で大学教員の私がこのホームページ「行政監視研究会」を開設した理由はそこにあります。「行政監視」は、国会の議員と職員という実務家が切り開く新しい学問分野なのです。
2016.2.17参議院憲法審査会 荒井達夫参考人発言PDFファイルを表示

参議院在職中、私は「行政監視」に熱意のある議員の皆さんと膨大な時間をかけて議論をしてきました。その最重要論点は、「行政監視」には行政の現場視察(特に行政の組織・人事の観点からの法律執行の現状調査)が不可欠であり、事件発生の有無に関わらず、超党派で長期継続的に行われる必要がある(※)、ということでした。いわゆる各省設置法や公務員法、政策評価法、会計法、情報公開法、公文書管理法、公益通報者保護法等を含め、あらゆる法律について、主権者国民に対する不誠実な執行がある場合、必ず行政の組織と人事に問題が起きているからです。また、組織・人事の観点からの「行政監視」は、内閣人事局を活用する強い内閣の出現で重要性が増しています。
※2011.4.18参議院行政監視委員会(末松信介委員長) 委員派遣報告PDFファイルを表示
※2014.4.9参議院国の統治機構に関する調査会 山下栄一参考人(元参議院行政監視委員長)発言PDFファイルを表示
※2016.2.17参議院憲法審査会 荒井達夫参考人発言PDFファイルを表示

省ぐるみで公文書の改ざんを行うという、主権者国民に対する最悪の行政が行われる状況の中で、行政の内部統制機関である会計検査院、人事院、総務省行政評価局が著しい機能不全に陥り、公務員の働きぶり(=法律の執行)を見張る仕組みの在り方が根本的に問われています(※)。これが問題の本質であり、まさに行政の組織・人事の観点から実態を調査し、原因を究明すべき行政の重大問題(我が国の行政に特徴的な本質的な問題)と言えます。学者を含め「行政監視」に関わるすべての国会関係者は、党派を超えてこの重大問題に真正面から向き合う議論をすべきであり、そうでなければ「行政監視」の名に値しません。
※2018.6.18参議院決算委員会 決議PDFファイルを表示
※2019.4.15参議院決算委員会 風間直樹議員発言PDFファイルを表示
※東京新聞2019.2.18 荒井達夫インタビュー記事PDFファイルを表示

参議院規則第74条第15号は、参議院行政監視委員会の所管として第一に「行政監視に関する事項」と規定していますが、本当に必要な行政の監視とは何か。どのような意味づけで、どのような活動を、どのような体制で行えば、本物の「行政監視」が実現するのか。「行政監視=法律執行の監視」の現場では、行政統制に関する一般論や抽象論、また単なる手段の議論ではなく、問題の本質を捉えた具体的改革案が求められています。そのためには、憲法的視点からの「行政監視」の理論と制度の構築が不可欠であり、それは国会の実務を踏まえた確かなものでなければならない、と私は考えます。「行政監視」は国民主権を支える仕組みであり、民主主義の原理(※)に基づき、公共の利益(=全国民に共通する社会一般の利益)の実現のために主権者国民に代わって国権の最高機関である国会が行う活動であるからです。
※「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」(日本国憲法前文)

「行政監視は、主権在民、党派を超えて」
参議院行政監視委員長として行政の現場視察に心血を注がれた故山下栄一氏の言葉です。この言葉をすべての政治家に浸透させたいと私は考えています。唯一の立法機関として国会が制定した法律が、公務員により主権者国民に対して誠実に執行されているかどうかを見張る責任が、国権の最高機関としての国会にはあるはずです。私たちは行政の現場視察を通じてこのことを強く感じました。これが「行政監視」の核心であると荒井達夫は考えます。

このホームページの情報が「行政監視」に関心のある方々の参考となり、本気で「行政監視」を進めようと努力する政治家への応援となることを心から願っております。今こそ、国会の実務家(議員と職員)が覚醒すべき時なのです。

2022年8月26日        行政監視研究会 主宰者 荒井達夫





「行政監視研究会」は、元国会職員で大学教員の荒井達夫が主宰する「行政監視」に関する研究会です。
「行政監視」は、国会の議員と職員という実務家が切り開く新しい学問分野です。
このホームページ(2022.8.26公開)では、「行政監視」に関する最先端の国会論議を紹介します。

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